3年生の授業も3学期に入り、社会的な話題に踏み込んでいきます。特に、教科書では「キング牧師」を取り上げ黒人差別に触れていきます。ただ、人権がテーマの素晴らしい題材にもかかわらず、「他人事」で終わらせてしまうのではないかということを恐れていました。なぜなら、黒人差別とは縁遠い世界に暮らしている我々日本人にとって、「他人事でなく自分のこと」として考えるというのは、子どもだけでなく、大人にとっても難しいことだと思うからです。
教科書の流れに沿って進めれば、さらりとキング牧師の功績を知ることはできます。しかし、日本人にとってイメージしづらい問題について、あいまいなままに教科書内容を理解したとしても、キング牧師の偉大さ、当時の人々の思いに寄り添うことは難しいのではないかと思います。
そこで、まずは生徒たちが必要十分な「背景知識」を学ぶことを大切にしました。さらに、「奴隷制度時代→南北戦争終結→公民権運動→現在(Black Lives Matter)→身の回りの人権問題」をストーリー性のある流れになるようで授業を組み立て、生徒の心を少しでも揺さぶることができるように工夫しました。
また、指導の際には、言語活動を通して英語を実際に使用させることを大切にしました。考えや意見を整理して発表しながら、よりよい英語の使い方を考えることができるように、各時間を組み立てました。
指導と評価の工夫点
- 人権問題などの社会的な話題を「他人事でなく自分のこと」として考えることができるように、教科書以外の題材も扱いながら生徒たちが十分な「背景知識」を学ぶことを大切にしたり、各時間の話題をストーリー性のある流れになるように組み立てる工夫をしたりする。
- 英文を聞いたり読んだりした後に、ペアで考えたことや感じたこと、その理由などをメモで整理し、それを用いながら発表するという言語活動を継続的に実施する。
- ペアでの言語活動後には、推論発問や評価発問などを投げかけながら、教師と生徒のやり取り、生徒同士のやり取りを通して、友達の意見などを踏まえた自分の意見や感想をまとめるという目的意識をもたせるようにする。
- 言語面での指導(生徒の英語の使い方に関する誤りや、言いたくても言えなかったこと、またはやり取りを継続させるためのスキルなど)を、机間巡視中に個別にフィードバックをしたり、言語活動後には全体で考えさせて気づきを促したりしながら、改めて言語活動に取り組ませることで生徒の英語使用のパフォーマンスが向上するようにする。
授業内容(指導領域)
- 第1時:奴隷制度、黒人差別の事例(読む→感想を話す・書く)
- 第2時:南北戦争終結後の黒人の生活と差別の始まり(ビデオ→感想を書く)
- 第3時:キング牧師の登場(教科書本文を読む)
- 第4時:キング牧師のスピーチ(読む)
- 第5時:キング牧師とはどんな人物か(話す→書く)
- 第6時:キング牧師についてどう思うか(話す→書く)
- 第7時:黒人差別問題の現在(読む)
- 第8時:キング牧師から学んだこと・自分にできること(読む→話す)
- 第9時:外国人労働者の日本での生活(読む→話す)
- 第10時:差別のない世界をつくるために自分ができる事(読む・聞く→話す)
第1時
- 黒人差別問題について書かれた教科書の英文を読み、引用するなどしながら考えたことや感じたことを伝える。
- 写真や年表などの資料を見せながらTeacher Talk
- プリントを配布し、読みながら年表の空欄を埋めさせる
- 教科書の英文を読ませる
- 教科書について、事実発問や推論発問をしながら、ペアでやりとりをさせる
- 話した内容を踏まえ、自分の考えなどを書かせる
- 書いた内容を、英語通信にまとめて後日配布して共有
《Teacher Talkの例》
第2時
- 関連する資料と英文から分かったことをまとめ、考えたことや感じたことを伝える。
- 黒人奴隷の歴史についての英文と年表から分かること、疑問点などを考えさせる。
- グループで共有してホワイトボードで共有する。
- 教科書では述べられていなかった、「奴隷制度を廃止したはずが、黒人差別が始まり、継続していたこと」に気づかせる
- 生徒の疑問を解き明かすために、次のビデオを見せる。
- ビデオの内容に関する自分の考えや感想などをペアで伝えあう。
- ペアで話した内容を踏まえ、自分の考えなどを書く。
《Teacher Talkの例》
第3時
- キング牧師について書かれた教科書の英文を読み、概要や細かい情報などを読み取る。
- 前時を振り返りながらOral Introduction
- 次のプリントを配布する
- 教科書を読ませながら、概要や細かい情報を読み取らせる
第4時
- キング牧師のスピーチを見たり、スピーチ原稿を読んだりして、感情を込めて音読する。
- キング牧師の実際のスピーチ映像(後半部分)を見て、感想をペアで伝えあわせる
- スピーチ原稿を配布する
- 教科書に掲載されている部分を中心に音読練習
- 感情を込めて音読をさせる
第5時
- 教科書を改めて音読させる
- Who is Dr. King?でお互いにキング牧師がどんな人物かを説明させる
- 中間指導で、説明の出だしの1文を共有させる
- Dr. King is the man who~.のような英文を取り上げ、関係代名詞などの後置修飾の有用性に気づかせる
- 改めてキング牧師がどんな人物かについて説明させる
- ペアで伝えあった内容を踏まえ、キング牧師についてまとめて書かせる
第6時
- 教科書を改めて音読させる
- What do you think about Dr. King?で、キング牧師の功績についての考えや感想をお互いに伝えさせる
- 中間指導で何人かの生徒とやり取りをして、考えを共有させる
- さらに生徒の考えを深めるための発問をする
- If you were one of black people in 1955, what would you do? でやり取りをさせたり、指名して答えさせる
- 改めてキング牧師の功績についての考えや感想を、ペアで伝えさせる
- ペアで伝えあった内容を踏まえ自分の考えや感想を書かせる
第7時
- 現代の黒人差別問題の状況を踏まえて意見や考えを伝えるために、関連するビデオを見たり、放送原稿の英文を読んだりして内容を理解する。
- スライドを用いながらTeacher Talk
- 現代の黒人差別問題についての情報を理解させる
- セサミストリートのビデオ(0:00〜03:05)を見せて、概要を理解させる
- ビデオの放送原稿を読んで、細かい内容を理解させる
- ビデオの放送原稿を音読させる
《Teacher Talkの例》
第8時
- 現代の黒人差別問題についてのビデオや英文を基に、引用するなどしながら自分の考えや感想を伝える。
- セサミストリートのビデオを改めて流し、放送原稿を音読させる
- What did you learn from Dr. King?で、英文の内容をもとに自分の考えや感想を伝えさせる
- 中間指導で何人かの生徒とやり取りをして、考えを共有させる
- さらに生徒の考えを深めるための発問をしたり、言語面でのフィードバックからより良い表現方法についての気づきを促す
- 改めて自分の考えや感想を伝えさせる
- ペアで伝えあった内容を基に、自分の考えや感想を書かせる
《Teacher Talkの例》
第9時
- 外国人労働者の日本での生活についての英文を読み、引用するなどしながら自分の考えを伝える。
- 前時の内容を振り返りながらTeacher Talk
- 次のプリントを配布する
- 外国人労働者の日本での生活についての英文を読ませる
- (1)(2)の設問について、自分の考えをペアで伝えあわせる
- 適宜、何人かの生徒を指名したり、補助発問を与えて考えを広げたり、深めたりすることができるようにする
- 次のプリントを配布し、(3)について自分の考えをペアで伝え合わせる。
- 意見を共有したり、補助発問をしたりしながら、より良いパフォーマンスに改善できるようにフィードバックを与える。
《Teacher Talkの例》
第10時
- 教師の考えを聞き、引用するなどしながら自分の考えなどを伝える。
- メモを取りながら、教師の考えを聞かせる
- メモは前時のプリントの(4)にとらせる
- 事実や自分の考え、意見、感想などをメモで整理させる
- メモを用いながら、ペアで自分の考えなどを伝えあわせる
- 補助発問や友達の発表を聞かせることで、伝える内容を広げたり、深めたりする
- 改めて自分の考えなどを整理しながらメモを改良させる
- 生徒の様子を見ながら、文章構成などの言語面についてのフィードバックを与え、より良い表現方法についての気づきを促す
- 3~4を繰り返す。
- 全体発表させる
- ペアで伝えあった内容を基に、自分の考えを書かせる
- 歌を聞く
- まとめのTeacher Talk
《Teacher Talkの例》
まとめ
- 毎時間の内容をつなげながらストーリーのある授業展開を意識することで、人権問題という難しい社会的な話題にもかかわらず、英語が苦手な生徒でも普段の授業以上に、自分の考えを伝えるために考えようとしていたのが印象的であった。
- 単元終末や各時間の、生徒に身につけさせたい力の設定があいまいであった。
- 生徒の最終的な発話を十分に想定することができていなかった。よって、伝える際の文章構成についての指導がきちんとできていなかった。
- 毎時間、自分の考えをメモで整理することを、段階的に指導しておく必要があった。
- 最後の歌は、Michael JacksonのMan in the mirrorにすれば教科書内容とはかなり合致する。(Black or Whiteもあるが…。)
参考文献
- 第9~10時のプリントは次の岡山県の人権教育指導資料5のワークシートを参考に英訳し、作成しました。