言語活動を通して「活動に取り組ませながら育てていく」ということが大切になり、英語教師としての指導観を大きく変えていく必要性を感じています。そのために、自分なりにさまざまな言語活動に挑戦しているところです。
その中で気づいた、自分の指導の問題点と、具体的な指導法をまとめておきます。
新学習指導要領で求められている指導とは?
まずは、以下の山田調査官の新学習指導要領の改訂のポイントを見てみましょう。
ポイントとなるのは以下の通り。
- 互いの考えや気持ちを伝え合う
- 対話的な言語活動(やりとり)を一層重視する
- 言語活動の繰り返しを通じて、資質・能力を育成する
- まずはやらせてみて、取り組ませながら高めていく
僕の指導の問題点
以上のポイントを取り入れながら、自分なりに言語活動を工夫して継続して取り組んできたつもりですが、僕の指導に抜け落ちている重要なことに気づきました。それは、僕は「言語活動に繰り返し取り組ませているだけ」で、「生徒の力を引き上げるための手立てが十分にできていない」ということでした。
スポーツの指導ではどうする?
例えば、バレーボール部の部活指導をするとします。スパイクが打てるようになることを目標に練習をします。僕は指導者として次のように指導します。
- 「良いスパイクを打ちたい!」という意欲を高める
- 打ちやすいトスを上げてあげる
- スパイクを打たせてみる
- 選手の問題点を把握する
- 選手に自分の問題点に気づかせる
- 問題点に関する指導をする
- 改めて2~6を繰り返す
ここで、4~6の具体的な指導をせずに、ひたすらスパイクを打たせたらどうなるでしょうか。無茶苦茶なフォームで、がむしゃらに練習していても、技術は向上しないばかりか怪我をするだけ。こんなことは容易に想像がつきます。
英語の指導ではどうする?
では、英語の授業ではどのように指導すべきでしょうか。テーマに沿って2人で「やりとり」を継続することを目標に授業をします。僕は教師として次のように指導します。
- 「そのテーマについて伝えたい、友達から聞きたい!」という意欲を高める
- 心地よく自分の気持ちを伝えあえるクラスづくりをする
- ペアを組ませる
- テーマに沿って、やり取りさせてみる
- 生徒の問題点を把握する
- 生徒に自分の問題点に気づかせる
- 問題点に関する指導をする
- 改めて2~7を繰り返す
ここで、5~7の具体的な指導をせずに、ひたすら活動を繰り返してみることとします。会話は継続できないばかりか、伝えたいことは伝えられないし、誤った英語の使い方が身につくだけ。こんなことは容易に想像がつきます。
自分の指導を振り返る
では、自分の指導はどうだったのでしょうか?僕は「活動に繰り返し取り組ませること」で、生徒のパフォーマンスは向上するような気がしていました。つまりは、以下のような流れです。
- 「そのテーマについて伝えたい、友達から聞きたい!」という意欲を高める
- 心地よく自分の気持ちを伝えあえるクラスづくりをする
- ペアを組ませる
- テーマに沿って、やり取りさせてみる
- 生徒の問題点を把握する
- 生徒に自分の問題点に気づかせる
- 問題点に関する指導をする適切にできない・ポイントのズレた指導をする
- 改めて2~7を繰り返す
バレーボール指導では簡単に分かっていた大切なことが、英語の授業になると分かっていなかったのです。「何となくうまくいかない」ことは分かっていましたが、自分の指導に不足していることに気づかない以上、同じようにやっていくしかありませんでした。
しかしこの1年間、さまざまなきっかけ・出会いの中で、自分の指導を振り返ることができました。その中で「活動をやらせてるだけ、または何度もやってるだけで、生徒が勝手に成長するなんてことはない」ということに気づかされました。そして、「生徒のパフォーマンスを向上させるためには、活動中に生徒たちが発した言葉を拾い、教師が生徒とのやり取りの中で気持ちや考えを引き出し、教師が適切に指導・フィードバックを与えていくことが不可欠である」ということを実感できました。アタリマエじゃん!と思われるかもしれませんが、僕はやっとこれらのことに気づき、自分の指導の改善に取り組むことができるようになりました。
つまり、活動をむやみに繰り返すのではなく、適切なフィードバックを与えながら活動に繰り返し取り組ませ、生徒のパフォーマンスを向上させる指導が必要です。現状で思いつく限りをまとめてみます。
内容を広げる・深めるためのフィードバック
- 教師が詳しく聞く
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、関連質問をしながら生徒の考えを深める。また、生徒の意見を板書で整理しながら、友達の発言から自分の考えを整理・再構築させる。
- 良い例を示す
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、目的・場面・状況に沿って、生徒が適切に自分の気持ちや考えを伝えている例を全体にシェアする。必要に応じて、板書で整理してやる。
やり取りのスキルを高めるフィードバック
- 会話の切り出し方を学ぶ
S-S Interactionのあとに、全体に"What's the first question?"などと聞き、実際のやり取りの中での実例をシェアする。
- 単語でなく文単位で答える習慣をつける
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、単語レベルで答えた生徒に言い直させるように仕向ける。(T: What sport does your brother like? S: Volleyball. T: He...? S: He likes volleyball. )
- 追加情報を伝える習慣をつける
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、"Tell me more."などと言い、さらなる発言をするように仕向ける。
- 関連質問をさせる
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、教師の関連質問のモデルを見せる。または、教師と生徒のやり取りを聞いている生徒の誰かを指名し、"Do you have any questions for him/her?"などと聞き、関連した質問をするように仕向ける。
言語使用の正確性を高めるフィードバック
- 言いたかったけど言えなかったことを英語にする
机間指導で生徒のニーズを把握、もしくは想定しておき、S-S Interactionのあとに"How do you say (言いたかったけど言えなかった日本語)in English?"などと聞く、もしくは生徒から発言させて、全員でよりよい表現を考える。
- 誤りをリキャストで暗示的に指摘する
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、誤りのある発言を訂正して繰り返す。(S: He play volleyball every day. T: Oh, he plays volleyball every day.)
- 誤りを言い直させるように仕向ける
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、誤りのある発言を言い直させるように、文の頭だけ繰り返す。(T: What sport does he play after school? S: He play tennis after school. T: He...?)
- 誤りを強調して繰り返す
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、誤りのある部分を強調して繰り返す。(S: They was watching TV then. T: Ah, they was watching TV then.)
- 正しい内容が伝わる表現を確認させる
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、意図どおりに内容が伝わらない表現があった場合、話者の意図する表現と比較して提示する。(T: What does your sister like? S: She is like Doraemon. T: Which do you mean, "She is like Doraemon." or "She likes Doraemon?")
- 誤りに対して明示的な説明やヒントを与える
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、誤りのある発言に対して明示的な説明をする。(S: He is plays volleyball every day. T: "is" and "plays" are both verbs. You can't use them at the same time.)
- 英語の決まりやルールへの気づきを促す
S-S InteractionのあとにT-S Interactionを入れ、生徒から引き出した英文を板書する。英文を左右に分けて板書して比較させたり、気づかせたい文法事項をチョークで視覚化する。"Can you find any differences between the left side and the right side of the blackboard?"などと聞きながら、新出言語材料の特徴に気づかせる。また、"What's the point / rule?"などと聞きながら、文法事項を正しく使用するためのポイントやルールを、生徒たちの言葉を引き出しながら日本語でまとめて板書する。
まとめ
これまで、新学習指導要領の改訂に先立って、自分なりに工夫しながら授業実践をしてきました。特にこの1年間の学びは大きく、自分自身の指導を振り返る最高の機会となりました。僕が失敗から学んだこと、教わったこと、勉強してきたことが、この記事を読んでくださった方のために、少しでもお役に立てればと願っています。